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宮田淳教授らのサリエンスに関する論文がFrontiers in Neuroscienceに掲載されました
25.09.01
宮田淳教授らのサリエンスに関する論文がFrontiers in Neuroscienceに掲載されました。 論文リンク:https://www.frontiersin.org/journals/neuroscience/articles/10.3389/fnins.2025.1614468/full
サリエンス(salience)とは、環境の中の目立つ刺激に対して「ハッと注意が向く、重要と感じる」ことを指します。人間を含めた動物では、このようなメカニズムにより、限りある注意資源を効率よく割り当てることで、生存を有利にしていると考えられています。統合失調症ではこのようなサリエンスが過剰になることで、ありふれた刺激が過剰に強く重要に感じられるようになり、幻視・幻聴や妄想などの症状が生じると考えられています。
精神病理学者の中井久夫は、統合失調症の素因が強い人(現在の診断基準では統合失調型パーソナリティ症に該当)に見られる、変化に過剰に反応しやすい認知の特徴を「微分回路的」と表現しました(1)。これはサリエンスが空間的・時間的な微分の絶対値としても定義されることと符合します。また統合失調症を持つ患者さんの眼球運動を調べると、空間的な微分に基づく視覚的サリエンスの値が高いことが報告されています(2)。しかし神経レベルのどのような仕組みの変化が、視覚レベルの微分回路的な特性につながるのかはわかっていませんでした。
京都大学の藤田芳久医師、村井俊哉教授、および当教室の宮田淳教授は、視覚系などに見られる側抑制(center-surround inhibition:興奮した神経細胞の近くの神経細胞が抑制されることで、変化が強調される仕組み)を組み入れたモデルを眼球運動データに適用し、モデルのパラメータを変化させることで視覚的サリエンスの低下や亢進を再現できることを示しました。今後、このようなモデルを統合失調症などの精神疾患データに適用することで、精神疾患の神経メカニズムをサリエンスの観点から明らかにし、新たな診断法・治療法の開発につながることが期待されます。
参考文献 1. 中井久夫. 分裂病と人類. 東京大学出版会; 1982. 2. Yoshida M, Miura K, Fujimoto M, Yamamori H, Yasuda Y, Iwase M, ほか. Visual salience is affected in participants with schizophrenia during free-viewing. Sci Rep. 2024;14(1):4606.
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